空の色紙

作者:箒木蓬生|新潮文庫
デビュー作の「頭蓋に立つ旗」の他、初期の2編の中篇が収録されている。
表題作の「空の手紙」は殺人容疑者の精神鑑定を依頼される精神科医の話。
係累に対する2つの事件の鑑定をしているうちに、自分の中の屈折した感情に気づく。
特攻隊員だった兄の妻を、自分の妻に迎えた葛藤を綴っている。
「嘘の連続切片」は医学論文中のデータの捏造を暴かれる話。
学生運動が活発だった時代を背景に、師と弟子という醜い関係が描かれている。
「頭蓋に立つ旗」は医学生に対して、厳しい指導をする解剖学の教授の話。
戦時中の後ろ暗い過去を持つ教授が、献体に異様なくらい気を使う。

この人の作品は今までハズレはなかったが、この本はイマイチだった。
初期の作品ということもあり、舞台が古いのは眼を瞑っても、そんなに面白くない。
で、情景描写もくどく、わかりにくい。
その後の傑作を考えると、成長の過程なのか、作者の汚点なのかと思ってしまう。

先日読んだ「国銅」も良かったし、「三たびの海峡」「逃亡」は間違いなく傑作だ。

空の色紙 (新潮文庫)

空の色紙 (新潮文庫)