九月の四分の一

作者:大崎善生新潮文庫
若かったころの出会いと別れを振り返る男達が主人公の4つの短編集。
親友が同じサークルの女性と付き合い始めたことをきっかけに、
チェスにのめりこむ姿を描いた「報われざるエリシオのために」
彼女の心配を無視して、10年間勤めた将棋雑誌の編集長を投げ出し、
英国の老婦人からのファンレターを訪ねる「ケンジントンにささげる花束」
札幌で、レッドツッペリンのコピーバンドで精力的に活動していたときに、
出合った女性ボーカルとの関わりを綴る「悲しくて翼もなくて」
小説家になる夢が破れ、逃げるようにやってきたブリュッセルで、
出会った日本人女性とわずかな期間を過ごす「九月の四分の一」
最初の作品を除けば、主人公はいずれも40過ぎの中年だ。
味気ない今日に比べ、思い出は美しく、現在をリセットしたくなる気持ち。
こう書くと、後ろ向きな感じがするが、そんなことは感じさせない表現。
退屈はしなかったし、言葉をきれいに使う作家だと思う。面白かった。

九月の四分の一 (新潮文庫)

九月の四分の一 (新潮文庫)