明日の記憶

作者:荻原浩|光文社
50歳で若年性アルツハイマーを発症し、不安に怯える男の物語。
広告代理店に勤める佐伯は、頭痛と不眠に悩まされていた。
職場では度忘れがひどくなり、クライアントの打合せを完全に忘れるという失態。
不安になった佐伯は精神科に訪れ、若年性アルツハイマーという診断を下される。
会社では知られたくないので、備忘録やメモを書くのを習慣付けるが、
仕事では失敗を繰り返す。周りの哀れみを含んだ目が彼を苛立たせる。
妻の枝美子は気丈に彼を支える。娘の結婚式も迫っている。
家族の期待に応えようと佐伯はがんばるが、記憶はどんどんと薄れていく。
この人の小説は窮地に陥る主人公の緊張感を描くのが上手いが、ユーモアがあった。
奥田英朗に共通しているテイストだ。新堂冬樹も上手いが、救いがない。)
だが、この作品は、今までの小説と少し毛色が違う。希望が感じられないのだ。
作中に挿入される備忘録は、平仮名が目立ち、病気が進行しているのがわかる。
記憶を徐々に失っていくという恐怖感は、苦しくなるくらいだ。
最後の記憶の景色の美しさと、ラストシーンの残酷な描写の落差が悲しい。
この作家は色んな引き出しを持っている。今のところ、ハズレはない。

明日の記憶

明日の記憶