疾走(上・下)

作者:重松清|角川文庫
舞台はイニシャルだが、たぶん岡山県だ。「浜」と「沖」と呼ばれる土地。
「浜」に住む4人家族の次男が主人公。子供のころから兄を慕っている。
「浜」の人間は「沖」に住む人を蔑ずんでいたが、リゾート開発が持ち上がり一変。
次男の家族も兄が高校で挫折して、不登校になることろから、不幸が始まる。
兄は心が壊れ、放火犯として逮捕され、父親は失踪し、母親はギャンブルに狂う。
中学生になった次男は、学校で徹底的にイジメの標的になる。
唯一の救いは同級生のエリとヤクザの情婦のアカネと「沖」にある教会の神父。
だが、死刑囚の神父の弟に会ったことで、次男の心は壊れたまま疾走する。
次男は、故郷を捨て、大阪で悲惨な目にあい、東京でエリと再会する。
この小説には、聖書の1節が頻繁に登場するが、救いは全く無い。
「お前は・・・」と語りかける文体は、最初はとっつきにくかったが、
最後に誰が語りかけているのかがわかると、納得する。
作者が何を伝えようとしたのかわからないくらい、救いようのない悲惨な話。
面白いとは決して言えないが、深く心に残る小説だった。傑作だと思う。