わくらば追慕抄

作者:朱川湊人|角川文庫
昭和30年代の東京下町を舞台に、人の心が読める能力を持つ姉と、語り部の妹の活躍を描いた連作集。
「わくらば日記」に続く2作目で、昭和の高度成長期のノスタルジックな雰囲気が良い。
実際の事件もエピソードとして取り込んでいるところも、興味が増す。
本作も洞爺丸事故や浅沼委員長刺殺事件をベースにした話がある。
語り部となる妹が昔を振り返り、語りかける口調で話が進むが、姉が27歳で亡くなることは明かされている。
姉が死ぬまでは、そのエピソードは追いかけたいし、周りの人間関係の伏線も巧妙にひいている。
元々は怪談作家だけに、表現は上手いのだが、幻想的な描写は避けていることに奥深さを感じる。
話も面白い。もう少し悪意のあるところもと思うが、それでは話を壊してしまう。そのバランスもいい。