大延長

作者:堂場舜一|実業之日本社文庫
夏の甲子園高校野球の決勝を描いた作品。今読むのはタイムリーだ。
新潟の公立高校で甲子園初出場の海浜高校には牛木という絶対的なエースがいた。
東京の強豪私立の恒正には、超高校級スラッガーの久保が結果を残していた。
勝戦は0−0のまま延長再試合となるところから始まる。
海浜の監督の羽場、恒正の監督の白井は大学時代にバッテリーを組んでいた。
選手の自主性を重んじる羽場だが、自らが連投のため肩を壊し、選手生命を失った過去を持っていた。
怪我から復帰して間もない牛木の状態が万全ではないとみた羽場は、再試合に登板させないことにした。
白井は高校野球の指導者として、実績を積んでいたが、指導法は徹底的に選手をコントロールさせることだった。
そんな白井も、久保だけは制御できず、他の選手を抑えつけることでチームに君臨していた。
この大会で優勝し、新興私学に好条件で移籍するはずだったが、選手の喫煙が写真週刊誌に撮られてしまう。
白井は選手たちに当たり散らし、チーム状態は最悪になる。
この試合をテレビで解説をしていたのは、羽場と白井の恩師の滝沢だった。
彼は咽頭がんを患い、この解説を最後の仕事にすることを決めていた。
滝沢は再試合直前に、羽場と白井に電話をして激励するが、両者の反応は対照的だった。
再試合が始まるが、牛木の投げられない海浜を、恒正が早々と控え投手を打ち崩す。
一方的な展開になりそうなところだったが、あるアクシデントで試合が大きく動き始める。


自分の野球人生を投げ打ってでも登板したい牛木。
大会後の自分の価値を高めることの興味しかない久保。
二人の中心選手と、対照的な性格の二人の監督。
脇役の選手たちの印象的なプレーがきっかけになり、純粋に勝利を目指す。


野球小説に面白いモノはあるが、試合内容で読ませるものは少ない。
その点ではこの作品は面白い。ラストシーンからエピローグのつなぎ方はいい。