春を嫌いになった理由

大学卒業後、4年間もフリーターを続ける秋川瑞希は、テレビプロデューサーの叔母に呼び出される。
外国人の霊能力者のエステラの通訳を頼まれ、嫌々ながらも引き受ける羽目となった。
最初のロケ現場で、エステラは近くに死体があるという。
スタッフが探すと、近くの廃ビルから、男性のミイラ化した死体が見つかった。
瑞希は過去の経験からオカルトめいた話は大嫌いだったが、次第に騒動に巻き込まれていく。
さらに放送本番中に、エステラは殺人犯がスタジオに向かってきていると告げ、現場は混乱する。


この小説は3つのパートに分かれていて、同時に進行する形をとっている。
一つは、瑞希を中心としたテレビクルーたちのドタバタ劇。
もう一つは、中国から密入国した兄妹のシリアスな逃亡劇。
さらに章の間に出てくる若い夫婦のごく日常的な会話。
この3つがどうやってつながるのだろうと思いつつも、話に引き込まれた。
特に、中国人のパートは「殺し屋イチ」を連想させる凄惨な描写があり、スリルがあった。
コミカルな瑞希たちの描写とのギャップを最後に埋めるストーリー展開は見事だ。
この作家はデビュー作はくだらなかったが、最近になって面白い作品を立て続けに出している。
この作品も非常に面白いサスペンスだった。ホラーの要素もあるが、そこも悪くなかった。

春を嫌いになった理由(わけ) (光文社文庫)

春を嫌いになった理由(わけ) (光文社文庫)