聖域〜調査員森山環

作者:明野照葉|中公文庫
調査会社に勤める環は、親しい後輩の啓太から相談を受ける。
妊娠した妻の柚実が「子供を産みたくない」という。
傍目には仲も良く、見たところマタニティブルーでもない。
環は柚実の過去の調査を始めるが、中学生以前の経歴が偽りだった。
柚実は生まれて間もないころから「桃源の郷」という施設にあずけられていた。
そこで人格をゆがめられた柚実には、樹一という弟分が影のように寄り添っていた。
現在も姉妹のような関係が続いており、当初は不倫を疑うが、傷ついた者同士が慰めあう関係だった。
ただ、樹一は環を敵視し、ストーカーのように付きまとう。


この「桃源の郷」というのは明らかに「ヤマギシ会」をベースにしている。
冷戦時代のさなか、個人が何も所有しないことで、農業をベースに理想郷を作ろうとした団体。
そこには子供を洗脳する要素がたっぷりで、柚実も樹一も洗脳が解けないままでいる。


社会派の告発小説ではないが、おかしな団体による洗脳の恐ろしさを描いた作品。
少し、「永遠の仔」に似ているかな。
作者のサスペンスでは少し物足りないと思ったのは、破滅する人物が現れないこと。
面白いが、バッドエンドの多いこの作者にしては結末は普通。

聖域―調査員・森山環 (中公文庫)

聖域―調査員・森山環 (中公文庫)