作者:下川博|小学館
オビに「2009年はこれだ」と書かれた歴史小説
弩とはクロスボウで、日本ではあまり普及しなかった武器だ。
イリアムテルが使っていた洋弓というイメージを持てばわかりやすい。
舞台は鎌倉時代末期の伯耆鳥取)の国。
小作人の吾輔は妻を亡くし、幼い娘を抱えた男やもめだが、才気にあふれ、村の中心的存在だった。
鎌倉幕府が危うくなり、吾輔の住む村は寺社領となる。
そこに現れたのは代官の代理の光信という若い僧侶だった。
光信は吾輔の住む村を桃源郷にしたいと考え、村人からは税を取らず、吾輔に商売の元手を渡す。
吾輔は村を離れ、備中の国に行き、地元でとれる渋柿と塩を交換するために奔走する。
やがて、何の役にも立たない渋柿が、身につけるもののコーティングの役割として役立つと認められる。
吾輔の村のもとには、塩俵が届き、交易は成功し、光信の目指す桃源郷に近づく。
ここまでの吾輔の成功譚が第一部。
第二部からはタイトルの「弩」による村の防衛戦が描かれる。
塩の商いが成功した吾輔だったが、鎌倉幕府は倒れ、南北朝の混乱とともに、周辺には不穏な空気が流れる。
他村に移住した、吾輔の親友が家族もろとも武士崩れに殺害される事件が発生し、吾輔の村もターゲットとなる。
吾輔の義兄で、楠正成に仕えていた義平太が村を守るため、「弩」を書き集め、訓練を開始する。
やがて、吾輔の村と悪党となった武士との戦いは避けられなくなる。


これはオビ通り、面白い小説だった。第一部の吾輔の商売の成功に至るまでの描写に引き込まれた。
でも、第二部は農民が武士と闘うまでの準備が大半で、肝心の戦闘シーンがあっけなかった。
前半は面白く、さらに第二部で期待を持たせたのに、「弩」の活躍の描写が物足りない。
全体として面白い小説だったが、少し肩すかしだったな。

弩