エンデの島

作者:高任和夫|光文社文庫
銀行員を経て出版社の編集をしていた門倉は、50代の半ばにリタイヤし、作家となった。
だが、妻には離婚を突き付けられ、執筆も進まず、酒におぼれる日々を送っていた。
見かねた後輩編集者から、伊豆諸島の奥ノ霧島への取材の依頼が来る。
生きる意味を見失っていた門倉だが、奥ノ霧島で様々な人と話をすることで、活力を取り戻していく。
この島はダイビングの有名スポットがあり、観光事業でなりたっていた。
だが、それだけでは島民の生活は潤わない。前町長の浮田と現町長の前田は様々な工夫を凝らしていく。
まず、大手デベロッパーが介入してこないよう、条令を改正した。
島民たちが工夫をして、客をもてなせるようになった。
その後、島内だけで流通する通貨を作った。これで、島内だけで自活できる道筋ができた。
門倉は島の有力者に話を聞くにつれ、理想郷だと思いつつ、日本から独立しようとする危険なにおいを感じる。
最後に出会う島への出資者は、かつて門倉が銀行に在籍したころの客だった。
これは、今の日本における理想社会を描いた小説だ。
それがすべての人に受け入れられるかは疑問だが、こんな島があれば移住したい人は多いだろう。
読んでいて、素晴らしい住環境とコミュニティだった。想像の中でもこんな島があればいい。
コミュニティってこういう感じで形成されるのだと錯覚させられる大人の童話。面白い。

エンデの島 (光文社文庫)

エンデの島 (光文社文庫)