オリンピックの身代金

作者:奥田英朗角川書店
昭和39年の夏の終わりに、警察庁警備本部長の自宅が何者かに爆破される。
その後、警察学校の寮が出火し、犯人から東京オリンピックを妨害すると脅迫状が届く。
犯人は東大大学院生の島崎国男で、彼がなぜ犯罪に手を染めるようになったかが描かれる。
秋田の寒村出身の島崎は、教師の援助もあり、大学に進んだが、母や兄は苦しい生活を送っていた。
ある日、出稼ぎの兄が心臓麻痺で死亡したという連絡が届く。
東京で葬儀を出し、実家に遺骨を届ける道中で村田留吉というスリと知り合う。
東京に戻った国男は夏休みの期間中、兄の仕事を経験しようと、飯場に住みこむことにした。
秋田出身の出稼ぎ労働者と、オリンピックの施設を建設する現場で働く国男。
次第に国家の繁栄の裏に地方が犠牲になっていることを知る。
この小説は国男が犯罪に手を染めるまでの経緯と、警察の捜査の様子が並行して進む。
オリンピック妨害という目的のテロは、報道機関には一切伏せられた。
公安主導で進む捜査に投入された捜査一課五係の落合昌男は、犯人逮捕に意気込む。
だが、事件の手がかりをつかむ前に、モノレールの橋脚や暴力団の事務所が爆破される。
捜査は秘密裏に行われ、公安から情報が下りてこないことに憤る五係のメンバーたち。
東京駅、東京大学で国男を取り逃す失態を犯した警察は、開会式の日に国男を捕まえようとするが。
奥田英朗の久々の長編は今から44年前の東京が舞台で、これがまた面白かった。
オリンピックを目前に、国民たちが沸き立つ様が伝わってくる。
そんな中で一人でたった国を相手にテロリストになった国男の心情が丁寧に描かれる。
ヒロポンを打ちながらも超人的な活躍をする国男は最後の舞台でも警察を翻弄する。
公安と刑事部の対立、出稼ぎ労働者たちの惨めさ、学生左翼活動を小馬鹿にした描写。
ストーリーの抜群の面白さに加えて、周辺のエピソードや装置も満載。
地方の怨念というテーマだが、決して暗い話にならないところにこの作家の魅力を感じる。

オリンピックの身代金

オリンピックの身代金