イヴの夜

作者:小川勝己光文社文庫

  • 文庫本裏書き

恋人を殺された三沢光司は、被害者にストーカー行為を続けていたとして、容疑者扱いを受けていた。
口下手で対人恐怖症気味の風俗嬢・三枝ひとみは、護身用のスタンガンとナイフをバッグに忍ばせていた。
生きることが不器用な二人が出会ったイヴの夜、誤解から殺意が生まれ・・・。
その日何が起こったのか?
痛いほどに切ない恋愛小説がここに誕生した。

  • 感想

恋人を失い、悲嘆にくれる光司がある日を境に、ストーカーのレッテルを貼られてしまう。
自宅にはマスコミが殺到し、職と家族の信頼を失い、路上で暴力をふるわれる。
この不条理さは小川勝己ならではの面白さで、次第に光司は壊れていく。
一方、博多でデリヘル嬢をしているひとみは、人から悪意を向けられることに異常におびえていた。
運転手の40過ぎの羽生を密かに想うが、彼の破たんした言動と行動に失望を感じていた。
東京から逃げ出した光司は、恋人と過ごした思い出を作ろうと、デリヘル譲を呼ぶ。
そこに現れたのがひとみで、ささいな行き違いから、二人は対決し、片方が重傷を負う。
その後、二人は意外なところで再開し、急接近するが、二人の周りにはまた悪意が生まれていた。
人付き合いの苦手な男女が、修羅場に突入しても互いを疑う様は、恋愛小説ではない。
だが、読み終わると社会不適合者の男女が自分の居場所を確保する話だった。
そういう意味では恋愛小説だし、ストーリーはスリルがあって良いし、読後感は悪くない。
この作家らしい黒さがただよっているのも魅力的だ。

イヴの夜 (光文社文庫)

イヴの夜 (光文社文庫)