みなさん、さようなら

作者:久保寺健彦幻冬舎
小学校を卒業した悟は、中学校に行かず、自分の住む団地から一歩もでないことを宣言した。
悟は毎日、団地内のコミュニティセンターに通い、図書館で本を読んだり、映画を見て過ごす。
大山倍達に憧れ、我流のトレーニングをし、団地内をパトロールし、同級生の無事を確認する。
悟が団地から出ることができなくなったのは、小学校の卒業式で起きた事件がきっかけだった。
頭のイカれた中学生が刃物を持って乱入し、悟の隣に座る同級生を刺し殺すのを間近で目撃してしまう。
その後、団地から出ようとすると、失神してしまう症状が現れ、悟は団地の中で生きていくことを決意する。
中学に進学した同級生達は、はじめの頃は悟を気遣うが、だんだんと疎遠になっていく。
それでも悟は団地内にあるケーキ屋で仕事を得て、生活の術を身につけていく。
小学校の頃から憧れていた早紀と付き合うようになり、結婚の約束をする。
だが、団地から出ることのできない悟から、友人も婚約者も離れていき、団地は老朽化していく。
空き室の目立つ団地には、放火や不審者の侵入、孤独死などの問題が発生する。
小学校卒業から10年以上経っても、悟は団地から出ることはない。
心に傷を負った悟の成長を描いた作品で、乾いていて、何となく寂しい雰囲気は古谷実の漫画を感じさせる。
第1回パピルス新人賞という、得体の知れない賞の受賞作だが、選考委員の石田衣良の小説よりはるかに面白い。
ブラジル人姉妹を救うクライマックスと、団地を出るきっかけになる悲しい出来事まで、読み応えがあった。
主人公は病んでいるのに共感してしまうという、不思議な魅力に溢れた作品。掛け値なしにイイ。

みなさん、さようなら

みなさん、さようなら