降臨

作者:明野照葉光文社文庫
人の無意識な悪意を敏感に感じ取ることのできる夫婦が、様々な問題を抱えた人に出会うホラー連作集。
第1話は複数のマンションの管理人をしている淑彦が、満員電車に乗ることができない理由を描いている。
第2話はストレスのため酒に溺れ、現実との境を失い、取り返しのつかない事故を起こす男が主人公。
第3話は交通事故で失った彼女の亡霊に悩まされる男の話で、結末のどんでん返しが怖さを引き立てる。
第4話も、第3話に似た話だが、密かに羨ましく思っていた同じマンションの住民が実は非常に困った人間という話。
第5話は、仕事上の疲れから、自宅の些細な配置が誰かの意図で帰られているという錯覚を持つ強迫神経症の男の話。
第6話は、気に入らない後輩のOLを追い出そうとする女性の話だが、生理的嫌悪感を持つ女性の怖さが身に染みる。
第7話は、家事を完璧にこなしてきた主婦がある日突然何もしなくなり、家族が困惑する話。
そして最終話は、マンションの管理人をしている夫婦の隣に引っ越してきた不気味な夫婦の話。
全編に渡って、淑彦と妻の花枝が登場するが、壊れた人間を覚めた夫婦とも視線で見つめている。
主にサスペンスだが、顔の無い人形を延々と作り続ける隣の夫婦を描いた最終話はホラーだな。
何気ない短い話でも、この作家は「おやっ」と思わせる展開を作り出している。
ただ、今まで読んだ作品の中では少しクオリティが落ちるかな。十分面白いのだけど、やはり長編の方がいい。

降臨 (光文社文庫)

降臨 (光文社文庫)