閉鎖病棟

作者:箒木蓬生|新潮文庫
精神病院の患者たちの人間模様を描いた作品で、山本周五郎受賞作。
神保町の三省堂ではこの本が平積みになっており、売れているらしい。
箒木蓬生の小説は面白く、かなりの作品を読んだが、これは不思議と未読だった。
主人公のチュウさんは、新聞の占いの内容がいつも自分の考えを盗用されていると考えている。
彼は精神分裂病でこの病院に30年以上入院していた。彼と親しいのは秀丸さんと昭八さん。
秀丸さんは癲癇の発作で母親と義父と子供を殺害し、死刑判決を受けた過去を持つ。
昭八さんはろうあ者で、家族に冷たくされ、自宅の納屋に放火をし、病院に送り込まれた。
彼らが、島崎さんという登校拒否の女子中学生と出会い、彼女を励ますため、色んなところに出て行く。
閉鎖病棟というタイトルだが、この病院は、外出は比較的自由だった。
島崎さんと出会い、幸せな3人だったが、島崎さんが同じ病院の患者の元ヤクザに暴行を受け、復讐することを誓う。
ひとりは退院し、ひとりは殺人事件を起こし、刑務所に送られ、ひとりは病院に残される。
懸命に生きようとする彼ら3人の不幸な過去は読み応えがあったし、他の患者のエピソードも良かった。
「逃亡」や「三度の海峡」「国銅」のようなダイナミックな展開はなかったが、暖かい作品だった。
この人はいい小説を書く。

閉鎖病棟 (新潮文庫)

閉鎖病棟 (新潮文庫)