十楽の夢

作者:岩井三四二|文春文庫
戦国時代の長嶋の一向一揆を描いた作品。長嶋という土地が尾張のすぐそばにあることに驚かされた。
また、海に流れ込む河口にある輪中で生活を営む、海の貿易商人が主人公というのも新鮮だった。
主人公の坂田弥三郎は、妾腹の3男だったが、織田家との戦いで、父と兄を失い、坂田家を継ぐことになる。
弥三郎は、織田家と衝突を繰り返しながらも、東国との貿易を行い、独立自治を保っていた。
死ねば浄土にいけるという一向宗は長嶋の土地にも根付いており、信長の対抗勢力となっていた。
大坂の本願寺は、長嶋の土地を信長の防波堤とするために、坊主を指揮官として派遣してくる。
だが、国侍や商人、農民たちの個別の戦闘が繰り返され、プロの先頭集団の信長軍に追い詰められていく。
実利を重視する商人の弥三郎たちは、長嶋の土地から逃げ出そうとするが、坊主達に妻子を人質に取られてしまう。
食べるものも無くなり、坊主達は夜陰に紛れて逃げ出し、降伏を余儀なくされた弥三郎たち。
城を出た途端に、織田軍の銃撃に会い、虐殺が始まる。悲惨な結末だが、面白いと思った。
それは、一向一揆を醒めた視線で捉えていることと、信長に仕える武将達のサラリーマン的な抑圧がリアルだったからだ。
弥三郎がもっと劇的な活躍をすれば、傑作だっただろうが、結末の描かれ方を読み、納得した。
日根野信就と、常蔵をもう少し、活躍させてほしいなと残念にも思った。
こういう歴史の知らない部分にスポットを当ててくれる小説は良い。

十楽の夢 (文春文庫)

十楽の夢 (文春文庫)