きつねのはなし

作者:森見登美彦|新潮社
狐の面をかぶった人が、夜の街を妖しげに歩く。京都を舞台にした不思議な雰囲気を持ったホラー。
4つの話が収められているが、連作ではない。だが、芳蓮堂という骨董品屋が必ず出てくる。
表題の「きつねのはなし」は芳蓮堂でバイトを始めた大学生が、顧客の天城の家で見る怪異。
「果実の中の龍」は様々な経験談を披露する先輩に惹かれる後輩の話だが、どんでん返しがある。
「魔」は京都の入り組んだ町屋にある酒屋に家庭教師に通う大学生の話。
「水神」は祖父の通夜で、親族達が遭遇する不気味な情景。
狐の面と共通して現れる、胴体の長い人間のような顔をした妖怪。
デビュー作の「太陽の塔」は面白かったが、文章が自分に合わないと思った。でもこれは悪くなかった。
京都の古い町並みに存在する闇を上手く描けていると思う。
雰囲気は非常によく、これでストーリーにメリハリがつけば、傑作になっていただろう。
一度は見限ったが、今後に期待の作家だ。

きつねのはなし

きつねのはなし