時の誘拐

作者:芦辺拓講談社文庫
この作家は知らなかったが、これは非常に面白いミステリーだった。
96年に書かれた作品だが、なぜ今まで気づかなかったのかと思った。
大阪府知事候補として乗り込んできた東京の官僚の娘が誘拐される。
犯人から身代金の運び手として指名されたのはまったく無関係の青年だった。
大阪の水路を使った鮮やかな手口で身代金は奪われてしまう。
身代金を奪われた青年は、犯人として逮捕される。
彼の弁護士は事件を追ううちに、過去の連続殺人事件に行き着く。
小説はここから過去の事件の記述に変わる。これが抜群に面白い。
終戦直後に存在した大阪警視庁の刑事と夕刊紙の記者が謎を追う。
現在と過去の事件がシンクロしつつ、クライマックスへ。
冒頭の死刑のシーンや原爆を落とされる直前の日本の官僚の様子など、
小説の中に出てくる複線の張り方が上手い。
過去の事件と冤罪の青年の関係や、探偵役が被害者になる意外性もいい。
少しだけ残念なのは、現在の事件の犯人の動機が弱かったこと。
そのことを差し引いても、最近読んだ推理小説の中では手放しで面白い。

時の誘拐 (講談社文庫)

時の誘拐 (講談社文庫)