握る男

作者:原宏一|角川文庫
文庫本裏書
昭和56年初夏。両国の鮨店「つかさ鮨」の敷居をまたいだ小柄な少年がいた。
抜群の「握り」の才を持つ彼の名は、徳武光一郎。
その愛嬌で人気者となった彼には、稀代の策略家という顔が。
鮨店の乗っ取りを成功させ、黒い手段を駆使し、外食チェーンを次々手中に収める。
兄弟子の金森は、その熱に惹かれ、彼に全てを賭けることを決意する。
食品業界の盲点を突き成り上がった男が、全てを捨て最後に欲したものとは。
異色の食小説誕生。


「ゲソ」というあだ名の徳武光一郎が主役で、兄弟子の金森が片腕となり、語り部である。
冒頭から金森は刑務所に入っており、そこで飲食業界の帝王と呼ばれた徳武の自殺を知る。
物語は80年代初頭から始まる。
ゲソは人懐っこく、手先も器用で、「つかさ鮨」で可愛がられ、いち早く頭角を現していく。
兄弟子の金森はその才能に気付くと同時に、ゲソの暗い素顔を知る。
邪魔者を陥れ、蹴落とし、自分に楯突いたものは決して許さない。
明るいサクセスストーリーではなく、相手の弱みを握り、策略を巡らす悪魔的な男の話だった。
途中、ゲソと金森の立場が完全に変わり、金森を恫喝し、怒鳴り散らすようになる。
80年代、90年代を背景に汚い手段でのし上がっていくゲソたちの行動はむしろ痛快でもある。
非常に面白く、この作者の代表作となると思う。


握る男 (角川文庫)

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