冬の陽炎

作者:梁石日幻冬舎

  • あらすじ

姜英吉は大阪で借金を踏み倒し、妻子を捨て、東京でタクシーの運転手をしていた。
正規の運転手採用ではなく、空いている車を午後から使用するアルバイトのような雇用形態。
酒におぼれ、妻子には連絡を取らず、サラ金で金を借りるような自堕落な生活を送っていた。
ある深夜、埼玉県まで客を送り届けた姜英吉は、ワゴン車の中で連炭自殺をしているグループを発見する。
その中の女性の一人が命を取り留め、彼女の姉の美津子が姜英吉の元にお礼に訪ねてくる。
肉感的な美津子に一目ぼれした姜英吉は、彼女に溺れていく。
彼女と会うために、借金が増えてきた姜英吉は、ある日客の忘れ物のボストンバックを発見する。
中には現金2300万円と宝石類と麻薬が入っていた。猫ババした姜英吉は気が大きくなり、散財を始める。
金周りのよくなった彼の元に、美津子の元旦那など、胡散臭い人物が群がり始める。

  • 感想

久々に梁石日の小説を読んだが、自身の経験をベースにしているからリアルだ。
宝石の処分の際にペテンに会い、落とし主のヤクザに発覚し、一転窮地に陥るところは面白かった。
ただ、金もないのに見栄をはり、刹那的に金を使う堕落した男を書くのはデフォルトになっている。
おまけに主人公がタクシーの運転手という設定はこれで何作目になるだろうか?
血と骨」「夜を賭けて」を読んでいなければ、面白い小説だと感じただろうな。
この作家のことを気に入っているのは、在日という被害妄想を登場人物に語らせないことだ。
自分の欲望に忠実で、結果的に破滅していく様を面白い話に作り上げていくのは上手い。

冬の陽炎

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