ラストソング

作者:野沢尚講談社文庫
破線のマリス」で作家デビューする前に書かれた作品。
携帯電話もなく、ようやくCDの発売が始まった80年代初頭の福岡。
地元のスターの修吉はレコードデビューを控え、ラストライブに備えていた。
ラジオ局に勤め始めた倫子は、若者向けのロックを流すDJとして、修吉のライブの取材に訪れる。
そこに飛び入りしてきたギタリストの一矢。修吉は倫子と一矢を口説き、共に上京することになる。
修吉と倫子は同棲し、バンドはシングルを出したものの、売れる兆しはなかった。
バイトをしながら、隅田川近くの倉庫に住み、練習に励むメンバー達。
北海道から津軽海峡を越え、日本海側を南に下り、細々とライブ活動を続ける。
だが、レコード会社は修吉に見切りをつけ、一矢を売り出す方向にシフトする。
修吉は、一矢のマネジメントに専念するよう通告を受ける。
バンドは解散し、一矢はソロとして売れ始め、修吉はマネージャーとなる。
倫子は音楽ライターになろうとしていたが、修吉と一矢のことが心配だった。
割り切って仕事をする修吉と、次第に暗くなっていく一矢。
やがて、3人の別れのときが訪れる。
この小説に描かれている出会い、挫折、別れはいつの時代にも共感できる普遍のものだと思う。
後になって、つまらないことに必死だったと笑えても、その必死さがなくなった寂しさを感じる。

ラストソング (講談社文庫)

ラストソング (講談社文庫)