余命1年のスタリオン(上・下)

作者:石田衣良|文春文庫

文庫本裏書
上巻
芸能界への登竜門「スタリオンボーイグランプリ」でデビューし、“種馬王子”の異名を持つ小早川当馬。
俳優として着実にキャリアを積み、プライベートも好調だったが、突如、がんの宣告を受ける。
余命は一年―。
残り少ない時間で、自分は世界に何を残せるだろうか。
俳優として、一人の男として、当馬の最後の挑戦が始まる。
下巻
当馬は、最後の一年を映画に懸けた。
監督の溝畑英治、先輩女優の都留寿美子らを巻き込みつつ、病身を押して撮影に打ち込む。
そして、思いもかけず生まれた、新しい愛。
「わたしは、当馬さんの赤ちゃん、産んでもいいですよ」。
その真っ直ぐな視線に、すでに人生の終わりを見定めた当馬はどう答えるのか―。


35歳の俳優当馬は順調に活動を進めていたが、止まらない咳が気になり、病院に行く。
すると、ほぼ治らないがんで、余命宣告を受ける。
彼は撮影に入る映画を最後の作品と決め、自身のがんを公表する。
さらに彼の子供を産んでもいいというマネージャが現れる。
死に向かって、生きた証を残そうとする当馬。
淡々とユーモアを含み、石田衣良らしい作品だ。
でも、35歳で癌で死ぬ人間が、すべてをやり遂げる境遇に恵まれることはない。
現実感のない童話のようだった。悪くないけど。


炎の塔

作者:五十嵐貴久祥伝社
単行本オビ
銀座のランドマーク「ファルコンタワー」。
高さ450メートルを誇る日本一の超高層ビルが完成した。
オープンの初日、タワーには震災を生き抜いた親子、重病を克服した夫婦、禁断の恋に落ちた教師と女子高生、離婚問題に直面する夫婦など、様々な事情を抱える人たちが訪れていた。
そんな彼らに未曾有の大火災が襲いかかった。
通称“ギンイチ”銀座第一消防署の若き女性消防士・神谷夏美は猛威をふるう炎の中、死を賭した任務に出動するが―。
完璧だったはずの防火設備はなぜ破綻したのか?
最上階に取り残された人々の運命は?
想像を絶する焔と人間の戦いを描く極上エンターテインメント!


往年のパニック映画「タワーリングインフェルノ」のオマージュ的作品。
登場人物が適度に散らばっていて、それぞれのエピソードが面白い。
ただ、本家の映画を超えることはなかったけど、それなりに面白い作品だった。


炎の塔

炎の塔

白日の鴉

作者:福澤徹三|光文社
単行本オビ
製薬会社のMR・友永孝は見知らぬ男女から電車内での痴漢の疑いをかけられて駅から逃走、駅前交番の新人巡査・新田真人に逮捕された。
友永は無実を訴えるが、聞き入れられず留置場へ。
後日、真人は被害者の女子大生と目撃者の中年男に疑いを抱き、老弁護士・五味陣介に協力を求めるが―。
三人は、想像以上に深い事件の闇へひきずりこれまていく。留
置場から拘置所、そして法廷へ。
仕組まれた冤罪との闘いを徹底した緻密さで描く、異色の警察小説!


主人公が窮地に陥り、逆転するストーリーは面白い。
これではありきたりになるのだが、主人公を捕まえた警官が協力者となる展開が意外。
友永も新田も実直で、ひねくれた弁護士の五味もやがて協力者となる。
単なる置換冤罪と思われた事件が、大きな事件を掘り起こしてしまうところはちょっとご都合主義な感じ。
でも、それを上回る展開が描かれ、上手い作家だと思う。
本業の怪談は少し減ったけど、単行本を見つければ、文庫本を待たずに無条件に買ってしまう作家のひとりだ。
読書は最高の時間つぶしだと思わせてくれる。


白日の鴉

白日の鴉

太閤の巨いなる遺命

作者:岩井三四二講談社
単行本オビ
侍を捨て商人となった男が、南海でふたたび刀を抜く!
関ヶ原の合戦から十年余。
豊臣秀吉はすでに亡く、しかし大坂の陣を前にして、世は徳川と豊臣との最後の決戦の時を迎えようとしていた。
かつて豊臣方の小西家に仕えていた彦九郎は、朱印船による南洋貿易を営む商人となっていたが、派遣先で行方知れずとなった盟友を捜すため、自ら海を渡る。当時の南洋には海賊船が出没し、大筒を積んだオランダやポルトガルの船が跋扈していた。彦九郎がそこで見たものとは―。


主人公の彦九郎はそれなりに武術の心得があるが、ヒーローとは言えない。
彼の仲間たちも思惑がらみで、団結しているとは言えない。
何か抜けている主人公たちと、豊臣家の反撃を試みる巨艦との攻防。
最初は豊臣に協力すると思われた彦兵衛の心変わりが意外。
それでも冒険活劇として十分に面白かった。


太閤の巨いなる遺命

太閤の巨いなる遺命

血の弔旗

作者:藤田宣永|講談社
単行本オビ
1966年8月15日、根津謙治は目黒区碑文谷二丁目にトラックを止めた。
現金11億を奪うためだ。
戦後の混乱期に金貸しを始めて財を成した原島勇平の屋敷で根津は居合わせたクラブのママを射殺する。
カーラジオからはローリング・ストーンズの『黒くぬれ!』が流れていた。
14年の歳月が過ぎ、新たな事件が彼らの身の周りに次々と起こる。
「誰が何のために?」混乱と疑心暗鬼の中、根津は煩悶する。
袂を分かった男たちの軌跡が再び交差する時、戦中、戦後を生きた人間の業と事件の真相が明らかになる―。
昭和の時代と風俗を克明に描写した熱き犯罪小説。


戦中に長野の疎開先で出会った4人は、根津の計画で、11億円を奪取する。
その4年後、大阪万博の年に、奪取した金を分配し、根津は居酒屋のフランチャイズで成功する。
他の仲間も芸能プロダクションや旅行代理店、作家としてそれぞれ財を成していく・
ところが、4人の接点を示す証拠が見つかる。
疎開先から、太平洋戦争で出生した兵士への寄せ書きに4人の名前が残されていた。
皮肉なことに根津の妻は、その出征兵士の娘だった。
時効までのカウントダウンが始まる中、4人は再び行動を起こす。


単行本で600ページ近い大作だが、昭和30年代から50年間を描き、当時の世相も織り込んでいるので飽きさせない。
非常に面白い作品だった。



血の弔旗

血の弔旗

ガラパゴス(上・下)

作者:相場英雄|小学館
単行本オビ
警視庁捜査一課継続捜査担当の田川信一は、身元不明のままとなっている死者のリストから殺人事件の痕跡を発見する。
不明者リスト902の男は、自殺に見せかけて都内竹の塚の団地で殺害されていた。
遺体が発見された現場を訪れた田川は、浴槽と受け皿のわすかな隙間から『新城 も』『780816』と書かれたメモを発見する。
竹の塚で田川が行った入念な聞き込みとメモから、不明者リスト902の男は沖縄県出身の派遣労働者・仲野定文と判明した。
田川は、仲野の遺骨を届けるため、犯人逮捕の手掛かりを得るため、沖縄に飛ぶ。
仲野は福岡の高専を優秀な成績で卒業しながら派遣労働者となり、日本中を転々としていた。
田川は仲野殺害の実行犯を追いながら、コスト削減に走り非正規の人材を部品扱いする大企業、人材派遣会社の欺瞞に切り込んでいく。


非正規労働者の厳しい現実が、いくつも描かれる。
労働者を洗脳し、低賃金でこき使う居酒屋、これはワタミだろう。
液晶パネルの工場の閑散とした様子、これはシャープ。
それから、被害者が働いていたハイブリットカーの組み立て工場。
一度ドロップアウトすると、なかなか正社員になれない現状。
そこにつけ込む、人材派遣業。
読んでいてつらくなるが、丹念に調査を進める田川刑事が徐々に真相に近づいていくところはスリリング。
現代の社会問題の闇を残酷に抉り、日本産業のダメな点がいくつも提示される。
考えさせられ、非常に面白かった。


ガラパゴス 上 (上)

ガラパゴス 上 (上)

偽金 フェイクマネ―

作者:相場英雄|実業之日本社文庫
文庫本裏書
会社の思惑で依願退職を余儀なくされた男は、オンラインゲームの電子マネーに目をつけ、一攫千金を狙う。
キャスターを目指すフリーの女子アナは、企業ポイントを取材、特ダネを探す。
“偽金フェイクマネー”を追いかけるふたりの陰で、現代ヤクザが暗躍。
巨額マネーをめぐる、拉致・脅迫から国際紛争まで事件は広がり、怒涛の結末へ―。
渾身の極上エンタメ小説!


都銀からリストラでサラ金へ、さらに会社の思惑でクビになった椎名。
ゲームのクリエイターと組み、電子マネーを介した送金ビジネスを構築する。
フリーアナの田尻は、電子マネーの危うさを指摘した取材を続ける。
椎名と田尻に、怪しげな実業家が現れ、中国では最新兵器を使ったテロの弾圧が報じられる。
椎名の法律にかからなければ、徹底的にそこをつこうという態度が面白い。
また、便利屋の五味が本性を現し、椎名と対峙するシーンもいい。
最新兵器は作品に不要だったと思うが、スリルのある面白い作品だった。


偽金 フェイクマネー (実業之日本社文庫)

偽金 フェイクマネー (実業之日本社文庫)