勇者たちへの伝言

作者¥:増山実|ハルキ文庫
文庫本裏書
ベテラン放送作家の工藤正秋は、リサーチのために乗車していた阪急神戸線の車内アナウンスに耳を奪われる。
「次は……いつの日か来た道」。
謎めいたアナウンスに導かれるように、彼は反射的に電車を降りた。
小学生の頃、今は亡くなった父とともに西宮球場で初めてプロ野球観戦した日のことを思い出しつつ、街を歩き始めた正秋。
いつしか、かつての西宮球場跡地に建つショッピング・モールに足を踏み入れる。
正秋の意識は、そこから「いつの日か来た道」へと飛んだ。四十数年前へ――。


能登から大阪に出てきた父親と、在日朝鮮人との恋愛。
タイムスリップした正秋が、父の青春時代に触れ、過去の話がスタートする。
帰国事業で北朝鮮に戻り、苦難をなめた人たち。
今はなき、阪急ブレーブスで活躍した選手たち。
これは傑作。


勇者たちへの伝言 いつの日か来た道 (ハルキ文庫)

勇者たちへの伝言 いつの日か来た道 (ハルキ文庫)

キングダム

作者:新野剛志|幻冬舎
単行本オビ
東京の裏社会に君臨する武蔵野連合。
愚連隊から組織となった集団は、地元の絆と仲間意識で繋がっている姿なき組織であった。
その実質的トップと噂される真嶋は、闇金と詐欺、そして芸能界や政界と癒着し、自らの”王国”を築こうとしていた。
一方、真嶋の元同級生の岸川は、職場をクビになり失業。
偶然出くわした真嶋の成功に心を乱される。――なんであんなやつが。
武蔵野連合が絡んでいると思われる事件を追う刑事・高橋は、連合の実態を追えば追うほど、その集団の得体の知れなさが不気味になる。
彼らは――真嶋は、一体何を企んでいるのか。
そして新たに、一人の女子高生が、王国の見えない罠に呑み込まれ……。
嫉妬、羨望、因縁、怨恨。あらゆる人間の感情で生み出された王国は、彼らにとって自らの居場所となるか、それとも――。


関東連合をベースにしたノワールで、そこそこ面白かった。


キングダム

キングダム

悔いてのち

作者:永瀬隼介|光文社
単行本オビ
あの日、妻に電話一本、メール一本入れていたらと悔やまれてならない男。
父親を亡くした少年は、いつもとは様子の違った父親になぜもうひと言声を掛けられなかったのかと悔やまれる。
大志を抱きながらも日々の繁忙に流されてしまった悔いが残る男。
悔いは男たちをどのように変えていったのか。この三人が出逢う……。


妻の死と共に警察を辞めた小津はパチンコ屋で働いていた。
SPで付き合いのあった政治家に呼ばれ、息子を探してほしいと頼まれる。
息子は大手広告代理店を辞めたあと、闇の勢力と付き合いがあるようだった。


面白いが、この作家にしては刺激が足りない。


悔いてのち

悔いてのち

砂の王宮

作者:楡周平集英社
単行本オビ
戦後、神戸三宮の闇市で薬屋を営んでいた塙太吉は、進駐軍の将校相手に御用聞きをしている深町信介と出会う。
薬を大量に売り捌くという深町の提案に乗った塙は、膨大な儲けを手にする。
昭和32年、門真にスーパーマーケット「誠実屋」を開業。
その後、格安の牛肉を店頭に並べることに成功し、業績は劇的に向上した。
東京への進出計画も順調に進むが、不動産王・久島栄太郎に弱みを握られ、さらに意図せず深町の死に関わってしまい、塙は絶体絶命の危機に陥る。



二部構成となっている作品で、塙太吉は戦後の混乱の中、薬屋からスーパーマーケットを開業。
仲間に恵まれ、関西で大成功するが、東京進出の際に、不動産王の久島に騙され窮地に陥る。
仲間の深町を見殺しにしたところで第一部は終了。


第二部は、窮地を脱した塙太吉は、日本を代表する流通王となっており、後継者問題に悩んでいた。
リニアの開通が見込まれる山梨に土地を買いあさり、人生の集大成となるショッピングセンターを計画。
だが、地元でレストランを経営する県会議員の瀬島が反対に回り、出店阻止を目論む。


終盤に塙と瀬島の関係が明らかになるのだが、少し余計な気もした。
ただ、戦後から現代まで駆け抜けた成功者の物語は面白かった。
塙はダイエーの創業者の中内功、久島はホテルニュージャパンの横井がモデルとなっている。


砂の王宮

砂の王宮

微笑む人

作者:貫井徳郎実業之日本社文庫
文庫本裏書
エリート銀行員の仁藤俊実が、「本が増えて家が手狭になった」という理由で妻子を殺害。
小説家の「私」は事件をノンフィクションにまとめるべく、周辺の人々への取材を始めた。
「いい人」と評される仁藤だが、過去に遡るとその周辺で、
不審な死を遂げている人物が他にもいることが判明し……。
理解不能の事件の闇に挑んだ小説家が見た真実とは!? 戦慄のラストに驚愕必至!
ミステリーの常識を超えた衝撃作、待望の文庫化。


動機の不可解さと、周りの評判から、まさかとの声があがる。
だが、仁藤の過去を探ると、不可解な事件が横たわっていた。
調査する小説家は、決定的な証拠をつきとめる。
ちょっと似たような作品を読んだ気がした。
同じ作者の「プリズム」だ。話は面白いけど。


プラージュ

作者:誉田哲也幻冬舎
単行本オビ
あるシェアハウスに住む、厄介者たちの物語。 悪と正義、法と社会、加害者と被害者……。
読む者の常識や既成概念を揺るがす、新たなエンターテイメント小説。
たった一度、魔が差した結果、仕事も住む場所も失ったサラリーマンの貴生。
やっと見つけたシェアハウス「プラージュ」で、人生やり直す決意をするも、個性豊かな住人の面々に驚かされることばかりの毎日。
さらに、一人の女性住人にあることを耳打ちされて……。


吉村貴生は仕事で面白くないシーンに直面し、出来心で覚せい剤に手を出す。
結果、逮捕され、勤めていた旅行会社はクビなる。
保護司に紹介されたアパートは火事になり、焼け出されてしまう。
再び保護司に助けを求め、「プラージュ」というシェアハウスを紹介される。
再就職を目指す貴生だが、前歴を見透かされ、なかなか就職できない。
プラージュの住民を観察すると、どこか不審なところがある。
会話を交わしていると、住人全員が元犯罪者だと判明する。


作中の合間にフリーのジャーナリストの話が挿入される。
徐々にその関係が明らかになるのだが、結末に向けて盛り上がる内容となっている。



でも、そんなに面白くなかった。


プラージュ

プラージュ

賢帝と逆臣と

作者:小前亮講談社
単行本オビ
有徳の皇帝がすべてを決めて統治するこそ理想――。

十七世紀半ば十四歳で親政を始めた清の第四代皇帝・康熙帝(玄ヨウ)は、
勉強熱心で経書史書に明るく、聖賢の道を究めることを理想としていた。
この時期、清の南方には独立小国家ともいえる三つの藩があり、
最大の実力者・呉三桂は明から清に寝返った将軍だった。
「裏切った者は、また叛く」――康熙帝は、
叛乱を覚悟しながらも熟慮を重ね、三藩の廃止を決定。
それは「史上最高の名君」となるための重大な決意だった。


三藩の乱には興味があり、読んでみたが、面白くなかった。
康熙帝呉三桂の描き方も平凡。
スパイの李基信の行動は面白かったが。


賢帝と逆臣と 小説・三藩の乱

賢帝と逆臣と 小説・三藩の乱